うつ病 治療数年 治るか不安(2007年2月3日)
30代主婦。数年前にうつ病の治療を始めました。夫は病気に理解がなく、けんかが絶えませんでした。夫と子どもは家を出て、夫の実家で暮らし始めました。
私は一人でパート勤めや資格の勉強をしました。でも症状には波があり、調子が悪くなると、仕事を辞めざるを得ません。
離婚話も出ましたが、病を克服して家族と生活したかったので、夫らを説得し、現在は再び家族一緒に暮らしています。「病を抱えながらも、地道に良い方向へ進んでいこう」と思います。今では夫も理解し、病院にも付いてきてくれます。
でもまた最近調子が良くないのです。主治医には「この先、症状がどうなるかわかりません」と言われました。次第に良くなると期待していたのでショックです。家族に迷惑をかけるばかりで、悲観的になります。医学とはそのようなものなのでしょうか。(東京・W子)
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これはうつ病はいったい良くなりきるものなのか、というご質問ですね。医療統計だけで言えば、「多くの場合は完治するが、1~2割は治りにくいこともある」ということになるかと思います。ただ統計は単に数字上のことで、長年はかばかしくない状態が続いても、すっと良くなることがあるのもうつ病の特徴です から、常に希望を捨てないでいることが必要です。あなたの場合、確かにまだ不安定みたいですが、今後を占う要素を分析してみると、プラス要因が目立ちます。まず、治療をずっと続けておられることです。医学にはもちろん限界もありますが、基盤としての治療は必須です。次に、ご主人との協力体制がだんだん築けてきたことです。どの病気もそうですが、 ご家族の理解は最も強力な味方です。
そして何よりもあなた自身の生き方です。今はうつ状態の最中なので病気の症状としてどうしても悲観的にしか考えられないのですが、お手紙からは、 家庭を維持し、「地道に良い方向に進もう」という粘り腰が感じられます。これはあなたの本質的な持ち味だし、うつ病と付き合う上で重要なことでもあると思います。
(野村 総一郎・精神科医)
うつ病の友人に軽率な言葉(2006年8月16日)
50代の主婦です。先日、30年来の友人に、久しぶりに電話をしました。
その友人は今、「更年期障害に、少し『うつ』が入っている状態」だそうです。ご主人や子どもさんは、病気に理解があり、協力的だと話してくれました。
私はそのとき、「知人に同じ状態の人がいる」「他人に頼りがちになる」「あなたは頑張って」などと口にしてしまったのです。軽率で、ひどいことを言ったことに気づきました。
私は心から謝りました。友人はとても優しい人なので「あなたが気にしなくてもいいのよ」と言ってくれました。
でも、私の言葉で、彼女の状態が悪くなったり、友人関係にひびが入ったりしないかと考えると、悲しくなります。私はどうしたらいいのでしょう。(広島・T子)
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友人へのうっかりした言葉で罪の意識に苦しまれていますが、結論から先に言えば、これは大丈夫な事態です。まあ「うつ病者は励ますな」「常に楽観的に接して」などが常識として言われていますから、あなたの言ったことは公式からは外れているかもしれない。しかし、言葉というのは相手との関係の深さや、その会話の文脈の中から生まれてきますから、本当に不適切だったかは一概には言えないものです。それとあなたの場合、「まずいこと」を言った後のフォローが良かった。これは「あなたはひどい」と誰かが指摘したわけでも、相手からの抗議があったわけでもない。自分で気づいたのです。たいていの人はまずいと自覚しても、いったん口に出た以上、それに従って強気を押し通す。それが傷口を大きくする。しかしあなたは違って、心から謝った。これはなかなか出来ないことです。
こうなると、お友達も心から「気にしなくても良い」と言うでしょうし、ひょっとすると、あなたの気持ちが伝わったことがどんな慰めの言葉よりうつにプラスに働くかもしれません。
(野村 総一郎・精神科医)
60代 よみがえった心の傷(2006年7月11日)
60代男性。夫婦仲は円満で、月の半分くらいは、娘のマンションで過ごしています。妻も娘も、私を心から大切にしてくれます。
しかし最近困ったことが起きました。心不全で入院し、退院後の療養中、突然心の奥に封印していたものがよみがえってきたのです。
それは、30年以上前の、最初に結婚した元妻の姿です。彼女から受けた心理的虐待、彼女が家出して男と同居していたころのやり取り――。元妻は小さな子どもを捨てて逃げました。これとは別に、亡母や妹からの暴言も次々思い出されます。悔しさで夜眠れません。
少し前に、20代の男性が「小学生のころのいじめ」を理由に人を殺した事件がありました。私は犯人の心理がわかる気がします。そうすることでしか、心を合理化できなかったのです。
と言っても今更どうなることでもありません。今の妻や娘には言えないことばかりです。心の傷を忘れる方法はないのでしょうか。(愛知・A男)
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心不全で入院し、退院した後にこれまで長い間心の底に押しこめてきた怒りや悲しみがよみがえり、悔しさで眠れなくなってしまったのですね。あなたは、妻や娘にも話すことができないことばかり、とおっしゃいますが、あなたの心の傷はまさに「語れないから」心の奥に封じこめられてきてしまったのでしょう。あなたはこれまでやさしい現在の妻と娘さんに心配をかけてはいけない、と過去のつらさを一人で抱えこんできたのですね。心の傷は体の傷とよく似ています。ケガをした時、傷口を洗わず上から布をかぶせぴったりテープをはったら、傷は隠れるものの、いつまでも治りません。心の傷も同じ。隠して押さえこんでいると治らないのです。
しかし心配しないで下さい。あなたは今、かつての傷をきちんと受け止める力を持っていらっしゃる。封じこめた怒りを「表現し」、必要なら涙を流すことで、傷を消毒できます。つらさをノートに書いて下さい。過去の自分と対面して、抑えた感情を出し切って、今の家族との生活を十分楽しんで下さい。
(海原 純子・心療内科医)
「調子が悪くなると、仕事を辞めざるを得ません」
「…迷惑をかけるばかりで、悲観的になります」
「“地道に良い方向に進もう”という粘り腰」
「ひょっとすると、あなたの気持ちが伝わったことがどんな慰めの言葉よりうつにプラスに働くかもしれません」
「…暴言も次々思い出されます。悔しさで夜眠れません」
「…犯人の心理がわかるような気がします。そうすることでしか、心を合理化できなかったのです」
「あなたの心の傷はまさに“語れないから”心の奥に封じこめられてきてしまったのでしょう」
「隠して押さえこんでいると治らないのです」
「封じこめた怒りを“表現し”、必要なら涙を流すことで、傷を消毒できます。つらさをノートに書いて下さい」
相談も回答も、その心情が理解できるものばかり。ただ、ひとり暮らしの人はいない……。その意味では幸せなんじゃないかな。
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